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 新卒の就職戦線に外国人留学生が相次ぎ参戦している。中堅・中小企業にとどまらず、最近は海外で事業を展開する大企業が「若くて優秀なグローバル人材が採れるなら」と外国人の新卒採用に本腰を入れ始めたからだ。引く手あまたの売り手市場のはずだった就職に異変あり。新たなライバルの出現に日本人の就活生もうかうかしてはいられない。

 「エネルギーや重工業、自動車業界の大手の日本企業に就職したい」。3月下旬に都内で留学生向け就職合同説明会「ASEANジョブ・フェア2016」が開かれた。JX日鉱日石エネルギー、日産自動車、NEC、ユニ・チャームなど大手企業が所狭しとブースを設けた会場で、マレーシア人の男性留学生、チョン・ザオシャンさん(23)はこう意気込む。
 マレーシア政府などの留学制度を使って11年春に来日。群馬工業高等専門学校を経て、千葉大学工学部で機械工学を学ぶ4年生だ。「できる語学はマレー語、英語、中国語と日本語。日本の大手企業でキャリアを磨きたい」と10社近くのブースを回った。


 東京農業大学を卒業し、今は博士課程で国際バイオビジネスを研究する男性、ラマドナ・サフィルさん(26)はインドネシアのボゴール農科大学1年生のときに留学してきた。「日本の大手企業が外国人を積極的に新卒採用するようになった今年は、私たちにとってチャンス」と話す。

 
2日間で45社の大手企業が出展した合同説明会には延べ570人を超える外国人の就職希望者が集まった。今年に入り都内各地では「エントリーシートってどう書くの?」「『解禁』って何?」と戸惑う外国人に日本特有の就活戦線を乗り切るための無料セミナーが次々と開かれ、日本人就活生と比べたハンディは縮まりつつある。
 法務省入国管理局の統計では、13年に日本企業などへの就職を目的に在留資格の変更を許可された外国人留学生は1万1647人と01年の約3倍に増えた。最近は「グローバルに事業展開する大手の日本企業が国籍に関係なく国内外の人材を新卒採用するようになり、潮目が変わった」と合同説明会を主催したインテリジェンス新卒事業部の長谷川慧輔グループリーダーは分析する。
 これまで日本人中心に新卒採用してきた大手各社の外国人採用への意欲は高まっている。連結売上高の海外比率が7割超のダイキン工業は「国内、海外を問わず、優秀な人材を採用していきたい」(人事本部)。連結ベースの収益の海外比率を10%に上げる計画の明治安田生命保険は「今後は優秀な外国人なら新卒で積極採用する」(人事部人事グループの金沢善明グループマネジャー)という。
 新卒採用で日本人と外国人の垣根をなくす企業もある。日産自動車は海外の学校で学ぶ人に門戸を広げるため、通年で新卒採用する。「新卒採用に外国人の枠を設けない。優秀な人材なら国籍に関係なく新卒で採用する」と人事本部グローバル人事企画部の内山悟主管は強調する。11年度に新卒入社(工場を除く)122人中7人だった外国人が、15年度(現時点)は400人中53人に増えた。
 ただ、大手企業ですでに働く外国人社員に聞くと「昇進が欧米企業より遅く、先が読めない」(30代中国人男性)、「手本となる生え抜き外国人の先輩がいない。相談相手もいない」(20代中国人女性)といった声が多い。企業にとっては「入社3年ほどで辞められてはコストが回収できない」(ある大手メーカー幹部)との不満があり、この溝をどう埋めるかは喫緊の課題だ。
 外国人社員に長く勤めてもらおうと、一歩踏み込む企業が出てきた。NECは内定した外国人のうち海外の大学出身者には日本語のコミュニケーションを磨く約3カ月間の合宿を入社前に開く。入社後に英語などで相談できる先輩社員(メンター)を付ける制度も導入した。3月からは、日本語でしか使えなかった勤務管理や出張費などの社内手続きを英語でできるシステムに切り替えたという。
 海外の大学4校とインターンシップをするなど人材発掘にも余念がなく、11年度に4%だったNECの外国人新卒採用者は15年度、380人中68人と20%近くに増えた。「事業のグローバル化を進める上で世界各地の市場に精通した人材は欠かせない。異文化の人材が加わることで、社員の意識改革にもつながる」(人事部の森井伸一シニアマネージャー)とさらに外国人採用を増やす方針だ。
 企業の採用事情に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの南田あゆみ副主任研究員は「せっかく育成した優秀な外国人を欧米やアジアの有力企業に奪われるのは企業にとって損失。キャリア形成の早い段階で5年後、10年後にどんな責任ある仕事を任せようとしているのか、企業が各自に示すことが重要」と指摘している。

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